宮本百合子
底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
1953(昭和28)年1月発行
初出:「宮本百合子選集 第六巻」安芸書房
1948(昭和23)年12月発行
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
宮本百合子
最近二三年このかた、「伸子」ははじめて読者の人生そのものによって、生活そのものによって読まれはじめた。この重大な変化に気づいたとき、作者たるわたしは感動を制することがむずかしかった。「伸子」は、とうとう作者がそれを書かずにいられなかった心持そのものにおいて同感され読まれ批評されるときが来たのだ。「伸子」は、「文学」から人々の生活そのもののなかに解きはなされた。そして、この一つの事実は、作者に日本文学に一つの重大な転機が来ていることを告げるのだった。すなわち、「伸子」に反映しているこの現象は、どんな権力も否定することのできない事実をもって、今日の人民的可能性の高まりと、生活意欲の覚醒とを語っている。二十数年前には少数の女性にだけ意識された問題が、こんにちでは大多数の若い女性にとって実感のそそられる社会的な現実問題としてうけとられている。